ドキュメンタリー映画2本

Cocon烏丸の京都シネマで、2本続けて観てきた。

・新世紀 パリ・オペラ座
 2017年フランス/ジャン=ステファヌ・ブロン監督
・パッション・フラメンコ
 2016年スペイン/ラファ・モレス、ぺぺ・アンドレウ監督

『新世紀〜』の方はパリのオペラ座をまるごと捉えた映画、『パッション〜』はフラメンコの第一人者、サラ・サバスの新作を、世界ツアーまで含めてじっくり追いかけた作品。どちらも見応えがあった。やっぱわたしはドラマ=フィクションよりもこういうノンフィクション/ドキュメンタリー寄りのほうが性にあってるのかな。どちらも監督の目線というか主題の切り取りかたや編集にこめられたメッセージが伝わるいい映画だった。
あえて言えばカメラがより「空気」になってるオペラ座の方が凄いと感じたが、まあその辺は明確な主役がいるかいないかの差でもあるかもしれない。サラ・サバスを追いかける映像では、やっぱり彼女がカメラに向かってインタビューに答える絵も必要だろうし。
オペラ座の方も、新総裁に就いたステファン・リスナーがいちおう(団体の責任者ということもあり)主役級の扱いではあるけれども、もちろん彼だけを追ったものではない。オーディションを勝ち抜いて新しく入団した歌手をはじめ、演出家やダンサーといった<スター>たちから、事務方や清掃員に至るまで丹念に拾い上げられており、彼らの総体が築き上げる<パリ・オペラ座>こそがこの映画の主役なのだ(ふたつの映画のラストショットがともに「劇場を清掃するひと」のカットで締めくくられたのが印象的だった)。パリを震撼させたテロ事件、雇用削減、バレエ団芸術監督の降板、スト、はては公演2日前になって主役がダウンし急遽代役を立てる…など、ありとあらゆる問題が襲いかかる。チケット代が高すぎるのでなんとかしたい、という問題まで話し合われる。演出家と出演者の対立もある。舞台上に本物の牛を登場させるというのでその対策に追われる様子も描かれる。次から次へと難問が出てくるので、退屈している暇がまるでない。途中で、ああ、これは「働くおじさんたち(おばさんもいるが)」の映画なんだと思った。さらに、常に対話しコミュニケーションを取りたゆまなく調整しながらなお一級のクリエイティブを目指す映画でもある。
一流のクリエーターとは、常に他者と対話を続けるものであり、そのフィードバックがさらによりよい結果を生むことを知っているものなのだ…というのが、ふたつの映画に共通する一貫した姿勢で、これはおそらく真理でもあるのだろう。世の中には、孤独に耐えてただひとりで成し遂げるクリエイティブも確かに存在するのだけれども、オペラやダンスといった舞台芸術に限って言えば、やはり大勢の人間によるコラボレーションのたまものなのである、ということがよくわかる。
いや、なにも芸術だけでなく、およそ世の中のほとんどの「ビジネス」は互いにコミュニケーションを取り共通の目的を共有するところからはじまるのだから、だからこその「お仕事映画」でもあるんだけども。なのでダンスやオペラに関心のないサラリーマン諸氏こそ、こういう映画を観ればいいと思う。