KIDS ON THE SLOPE

坂道のアポロン/2018年/三木孝浩監督作品

原作漫画が好きで、テレビアニメ版の方も楽しく観ていたあの作品が映画化された、なんてつい昨日知った。で、観てきた。
冒頭「十年後」のシーンから始まるのでびっくりした。2時間の尺で、最後まで描ききるつもりなんだ、これ。アニメ版でも最終回はやや駆け足になっていたのが印象に残っていたので、一本の映画としてほんとに全部やれるんだろうか、バッサバサにカットしまくって変なストーリーになってなきゃいいんだけど…という杞憂は、2時間後さっぱりなくなっていた。いやあ、よく纏まってますわ。お見事。
話としては、たとえば文化祭をクライマックスとしてそのまま大団円、というテもあったかと思う。もちろん大改変ではあるけれど、互いにギクシャクした関係が一気に…というカタルシスは描けるはずだし、中途半端にあれもこれもとエピソードを拾おうとして支離滅裂になるくらいなら、原作のちょうど半分くらいに置かれた屈指の名シーンを、映画としての結末に選ぶというのもひとつの考え方ではあったと思う。しかしこの映画は、原作の重要な演奏シーンはほとんど残したまま、物語としてもちゃんと最後までやりきった。なので、観ている側としては満足度が非常に高い。セットや衣装まわりも1960年代の空気を出すべく気合いが入っていたように思った。代役なしという触れ込みの演奏シーンもとてもよかった。あえて言うなら喧嘩のシーンだけがちょっと引っかかった程度だけど、まあ大きな問題ではあるまい。
びっくりするくらい観客が少なかったんだけど、これからじわじわ人気が出るのかな。折りに触れて何度も見返したくなる物語なので、円盤化が今から楽しみでしょうがない。

【同日追記】
ちょっと冷静になって思い返してみたら、やっぱり少し引っかかったところはあった。いちばんは百合香さんを初対面時に「20歳」に設定したところ。帰宅して原作を読み直したら、やっぱ普通に上級生だったよなあと。大人の女性にした理由もわからなくはないけれども(2時間という尺では彼女のエピソードを深く掘り下げる余裕はないので、主人公たちとの関わり方も浅くならざるを得ない/にもかかわらず、作品タイトルといちばん関わりのある人物なのでストーリーから完全に省くこともできないという難しい役どころ)、それなら10年後の再会時にようやく淳兄との子を身ごもったという状況はどうなのか。駆け落ち同然で故郷を去ったふたりなら、その翌年には子供ができていて再会時にはすでに小学生になる子供を連れてきていた、というくらいの方がしっくりくるのではないかな。
物語終盤、事故を起こして意識不明に陥ったのが幸ちゃんではなく律ちゃんというのはいいとして、彼女が目覚めて千に伝言を、というシーンも少し引っかかった。つい今しがたまで廊下に一緒にいたんだから、「そこにいるから連れてくるよ」的な台詞が入っていたほうが自然だし、そのあとの喪失感により落差のある演出ができたような気がする。
まあでも上記は些細な点であり、映画全体の評価を損なうものではないと思う。ほどよく笑ってしっかり泣ける、いい映画だったという第一印象には変わりはない。