TAP THE LAST SHOW

2017年東映/水谷豊監督作品


“古き善き”を濃厚に感じさせつつも、現代風に仕上げられた映画だった、という第一印象。

ストーリィ自体は王道というかまあぶっちゃけベタなもので、特に出演する若きダンサーたちのそれぞれのバックグラウンドのあたり、やや取って付けた感はある(脚本というか設定として、いちばん難しい箇所でもあるんだろうが、それにしても深窓の令嬢のアレとかまるでアレだよね、とかは思ったが)。
わたしはテレビをほとんど観ないので、出演している役者さんがどれが誰だかがわかるのはほんの2、3名だけだ。その分、画面に映る人たちは「その役」というよりも「その人」そのもの、という目で見ていた。しかし、このドラマをそういう目で見られるのは、この作品の多くのシーンでリアルなドキュメンタリーを撮っているような気にさせられるから、なのかもしれない。
なにより、この映画のもっとも重要な「ダンスシーン」がマジモンなのだ。映画的にはきっとクライマックスのショウ・タイムが見せ場なのだろうけど、わたしがいちばん面白かったのはむしろ前半のオーディション〜練習シーンの、若きダンサーたちの本気の姿だったりする。そのへんに「ウソ」っぽさがほとんど感じられないからこそ、この作品は「映画」たりえているのだろう。



今年ももう半分近くになるんだけど、これまで観た中で特に「ダンス」が印象的な映画というと、湯浅政明監督『夜明け告げるルーのうた』と、今回の『TAP』のふたつだけかなあ。ひとつはそもそもストーリィのごく一部だし、さらに言えばダンスシーンはひときわアニメーション的なファンタジーあふれる演出。対するもうひとつは、まるでライブ中継みたいなリアルな実写映像。と、まるで正反対なんだけど、それぞれ「ダンス」をきちんと「ダンス」としてフィルムに定着させてやるぞという強い意志が感じられるのがたいへん心地よかった(別作品の悪口をあまり言わない方がいいとは思うけど、これらの日本映画に比べて某・米アカデミー賞受賞作品のダンスのがっかり具合ときたら、もう)。


この手の映画では主役連中よりも脇を固める登場人物の渋さに惹かれることが多い。今回もたとえば「八王子のジンジャー」と「アステア太郎」のデュエットにはニヤリとしたし(ああいう演出は往年のハリウッドミュージカル映画の十八番だよなあ)、劇場の事務員さんのことあるごとに光る演技など、心に残るシーンが多かった(メインのご老体おふたりの演技はなにしろ往年のハードボイルドすぎて。いやもちろんコレは褒め言葉ではあるんだけど)。もうひとつ、ほんの一瞬の出番だけど、ぽっちゃりダンサーさんのご亭主さんの、まあ似たもの夫婦感というかいかにもさにも笑わせてもらった(一見無駄なようで、こういう遊びがなけりゃ映画全体がどれだけ淋しいものになってしまうか)。
 
とはいえ、個人的には物語の隅々にまで共感/納得できたわけではないし、肝心のショウの音楽/編曲も個人的にはあまり好きになれない。
けれども、それでもクライマックスのダンスシーンには思わず息を呑んだし、なんなら盛大なスタンディングオベーションをしていたかもしれない(映画館に他の観客が誰もいなけりゃ、絶対大きな拍手をしていた)。
ダンスシーンのメイキングと、それからあのショウの(観客の視線などの、ダンス以外のシーンがない)アナザーバージョンが特典ディスクとして付くならば、絶対DVDでもブルーレイでも買います! まあ、いや、そういうのが無くてもたぶんディスクは買っちゃうとは思うけど。
ダンスをちゃんとダンスとして映像に残してくれた。この映画は、そんな当たり前のことをきちんとやっているから素晴らしい。正直言ってドラマ部分の方はわたしにはよくわからないけど、それはそれとして、「ダンス映画」として、実にいいものを見せていただいたことに最敬礼! なのであります。


【翌日追記】
一晩経って、ああそうだ、この映画ってもっと笑いがたくさんあった方が良かったんだ、ということに気が付いた。別にドタバタギャグをやる必要はなく、クスリとさせる感じのユーモアがもっと散りばめられていたら、話のメインである「かっこよさ」と相まってさらに素敵な映画になっていたと思う(劇場の社長とか、そういう味を出そうとしていたことは判るが)。脚本を含め全体からなんとなく感じる余裕のなさというか「いっぱいいっぱいな感じ」は、この映画が初めての監督によるものだからなのだろうか。