はやぶさ 遙かなる帰還

11日公開のこの映画、初回を観てきた。自分の覚え書き代わりなのでネタバレとかそういうことは気にせず思いついたことをつらつらと。3月には松竹版の3D映画もやるというのでそちらも観たあと、本家ブログの方に何か書くかもしれないので、そのためのメモとして。

はやぶさ映画は、人間が一切出てこないプラネタリウム版『HAYABUSA BACK TO THE EARTH』の帰還前/帰還後の2バージョンと、20世紀FOX版『はやぶさ HAYABUSA』そして今回の東映版『遙かなる帰還』の4本(3.5本というべきか)をそれぞれ劇場で観た。他にテレビドキュメンタリーでNHK制作の『小惑星探査機“はやぶさ”の軌跡』、関西テレビがつくった『おかえりなさい はやぶさ』のDVD版が手元にある。2010年の帰還後に放映された他のテレビ特番も、たぶん大半は目にしているはず。
さてその中で、本作はどういう位置付けをするべきか。娯楽作品の王道ともいうべきヒューマン・ドラマ、とするのがいちばん妥当だろう。FOX版では「完コピを目指した」という監督の言葉があったはずだが、こちらは逆に「映画ならではのドラマ」を作り上げることを目指していたと思う。そしてその目論見は、おおむね成功していたんじゃないか。なにより演技の達者な役者揃いなので、観ていて安心感がある。主役の渡辺謙だけはガタイが良すぎて(笑)最後まで違和感がぬぐえなかったが、シブイ演技はさすが。町工場の社長を演じる山崎(ああ、<崎>は環境依存文字なのでやはり出ないか。“山立可”)努なんて隅々まで絶品だ。少し心配だったのは的川教授役の藤竜也だったが、FOX版の西田敏行ともどもいい勝負だったように思った。
町工場の社長なんて、はやぶさ打ち上げ後には一切関係ない(その仕事は打ち上げのはるか以前に手を離れてるはずなので)からどう結びつけるんだろうといぶかっていたが、その絡め方もまあ無理のない範囲だったんじゃなかろうか。
ただ、7年間という「時間」を2時間ちょっとの上映時間で感じさせるのは、やはり難しいものだなあとは思った。FOX版ではそれを、市井のさまざまな「はやぶさファン」のエピソードをはさむことで解決しようとしていたが、東映版では女性新聞記者の息子の姿くらい。あとは登場人物それぞれの「内なる成長」で表現しようとしていたが、どうしたって無理がある。だって、みんな、そんなに年とったように見えないんだもの。外見を、たとえばもう少し白髪を増やすとかしてもよかったんじゃあ?
はやぶさファンにはおなじみの個々のエピソードについては、かなり刈り込んでいる印象。FOX版はよくもあんなに詰め込んだなと感心していたので、そのあたりも好対照か。まあ、あちらはどちらかというと外から見た(というか内部の人たちではあるけど半歩退いた側からの)はやぶさプロジェクト、対するこちらはいわゆる「中の人」視点、そういう違いはあると思う。その象徴が2009年末のクロスエンジン運用で、ニコイチ運用やるぜっていう時のチーム内の対立、そして実際に運用するにあたっての試行錯誤の連続をわりとじっくり描いていたのが印象に残った。これまでクロスエンジンのアイディアばかりが注目されてきていたけど、アイディアだけで問題があっさり解決するはずはなく、実際にはそのアイディアを実行に移すにあたってたいへん苦労していたんだな、というのがよくわかった名シーンだった。本当はあのニコイチ運用以外にも、同様の試行錯誤の連続の7年間だったはずだが、それをラストだけに絞ることによってより映画らしいドラマ性が生まれていたように思う。先に書いた「娯楽作品の王道」というのはこのあたりの塩梅のしかた。ま、脚本がいいってことなんだろうけど。

なんにせよつい先日の、ということは人々の記憶もまだ新しい「事実」を、映画という「ドラマ」に翻訳するのは難しい。「事実」がそんじょそこらのフィクション以上にドラマティックだったから、その難しさはなおさらだろう。そんな中でふたつの映画はともによくがんばっていると思う。時間を置いてもういちど見直すとまた違う感想がでてくると思うが、とりあえずファースト・インプレッションとしては、こんなとこかな。FOX版のブルーレイがもうすぐ(3月)発売なので、それも楽しみにしつつ、松竹版がどういう切り口でやってくるのか期待することにしよう。