おかえり、はやぶさ(松竹)

観てきました。
映画はいきなり46億年前から始まるのでびっくり。子供向けを意識しているんだろう教育映画的側面があちこちにみられ、20世紀FOX版とも東映版とも違うテイストだった。その「教育映画」っぽいつくりが鼻につく部分もないではなかったが、むしろそうすることによって膨大な情報をうまくまとめたなあ、という印象。
子供のための宇宙教室とか、JAXAがネットで展開している宇宙テレビ(ってタイトルだっけ)とか、そんなシーンを多用することによって、はやぶさの航海を解説的に説明。登場人物が子供たちに経緯を説明することではやぶさ運用のさまざまな困難を語っていく。7年間の苦難の物語をすべて映画化するのは無理なので、こういう省略のしかたはなかなかうまいと思った。
一方で、オリジナルストーリーの人間ドラマの部分は、ひとつが父と子の対立と和解、もうひとつが難病の母親とその家族というふたつの物語を用意していて、そつがない。まあ、母親の病気の方はうまく行き過ぎだろう、というかテレビドラマにもよくあるような「重病人のわりに血色がよすぎでねーの」パターンだったので説得力がいまいちだったんだが。
個人的に芸能人をよく知らなくて、とくに若い俳優が誰が誰だかさっぱりわからん。ということもあって、そのぶん「登場人物そのもの」としてしか見ていないのだが、おおむね違和感はなかった。まあ、主役の男性(藤原竜也)は「少女漫画で主役が恋するオトコ」というステロタイプそのものなんじゃねーの、とかは感じたが、そうでもしなけりゃとことん地味な映画になっていたことだろう(そうでなくとも派手さはない作品だし)。
自分が中年男のせいだろうが、やはり登場人物のなかでもそっち方面に共感することが多かった。的川先生ポジションを演じた中村梅雀なんかは、三作品のなかでもっとも存在感があった(し、作品の重要なメッセージをもっともたくさん語っていた)。
火星探査機「のぞみ」の失敗、というのが本作では大きな意味を占めるが、その責任者役の三浦友和(だいぶ太った?)もいい味。「のぞみ」計画に人生をかけてきたからこそその「失敗」の責任を誰よりも感じ、退官後ほとんど引きこもりのような生活を送っていることの必然性を、説得力ある演技と台詞で演じていた。あれ、実際の「のぞみ」担当者が見たらどう思うんだろうとか、余計な心配までしたくなるほどだった。
しかし「のぞみ」でのトラウマが「はやぶさ」で多少とも癒されたというのはあり得たことだろう、と推測する。例の「2番ではダメなんですか」云々発言の意趣返しなども含めて、「日本の宇宙政策」にもっとも突っ込んだ立場を貫いていたのは、この松竹版だった。例えば「こんな計画に巨額の税金をつっこんで、それが何の役に立つのか」というセリフを子供同士の議論の中で言わせたりするなど、無理矢理だなあと感じるところもあったにせよ、制作者がわの立ち位置をここまで鮮明にしたという点では評価するに値する。
臼田で、ロストしたはやぶさの電波を受信したカンニング竹山もいい演技。エピローグであっという展開があり、このへんは脚本がいい仕事してるなーと。


イカロスがなんの説明もなしにどんどん出てくるのにも笑ったが、あの辺はいわゆる「JAXAファン」向けのサービスなんでしょうか。いや面白かったけどね。でもまさかはやぶさ映画でイカロスの膜を広げる場面にでくわすとは思ってもいなかったぞ。

冒頭にも書いたように46億年前の宇宙創造の瞬間からはじまるこの映画、回想シーンが多くて時系列がときどきわけわかんなくなった以外はわりあいすんなり見られた。いや、あの子役が出しゃばるシーンとかはちょっと引いたけど。あ、あとそれから、宇宙空間で機械の動作音がしっかり出ている場面やキセノンガスが勢いよく噴出する場面でいちいちぷしゅーって音が出るところなんかは赤面ものではあったが。1950年代のSF映画かおまえは。それと冨田勲の音楽、これもかなり耳障りだった。安物のゲーム音楽よりまだひどい。前2作では音楽はほとんど印象にない(ということは少なくとも気にはならなかった)ので、逆に印象に残った…悪い意味でだけど。

ということでこの三作品、わたしの評価としては20世紀FOX>松竹>東映、かなあ。正直20世紀FOX版だけちょっと時間が経ってるので覚えてないところも多いけど。
あ、あの映画では<一般のはやぶさファン>の描き方にどん引きしたんだっけかな。じゃあFOX≒松竹、でもいいや。松竹版でも見てて恥ずかしくなるような部分もあったので、まあ互角ということで。いずれにせよ、東映版が最下位っていうのが個人的評価。FOX版のブルーレイBOXが先日届いたので今から見ようと思ってますが、あとの2作品はどうしようかなあ。どっちかひとつだけ購入しなければいけない、といわれたら松竹の方を買うだろうけど、仮に買ってもちゃんと見るかどうかは? ま、特典映像しだいかな。

書き忘れ。リエントリのところで、はやぶさ本体がバラバラになっていくところは、あそこまでしなくても…と思った。一方で擬人化とか心情的な思い入れのあるセリフを登場人物に言わせているわりに、たとえばあの子役が泣きもしないのがひっかかった。個人的には解体していく過程は見たくはなかったです、はい。