ぱしふぃっく・りむ

観てきた。以下雑感。
プロットというかストーリー自体はいわゆる定石なのでわかりにくいところはひとつもない。ああ、このキャラが途中で死んでこのキャラが生き残るのか、とかそういうのは冒頭からすぐにわかる。西部劇からベトナム戦争物まで、ハリウッド映画が得意としてきた物語をそのままなぞっている。なのでこの映画は「物語」を語りたいのではなくて、お定まりのプロットを借りて特撮技術、つまり「怪獣」と「ロボット」の闘いを描きたいのだろうな、というのは一瞬にして理解できた。
なのだけれども、その肝心のバトルシーンがよくわからなかった。クライマックスで、同時に三体現れるはずの怪獣がなぜか2体しか出てこない、なんでだ、どうしてだ、と人間側がうろうろしているうちにもう一体が登場する。映画としては最大のサスペンス、見せ場のはずなのだが、状況がよくわからないままバトルが終わって、主人公が敵の中枢へ乗り込んでしまった。
画面がよく整理し切れていないというか、いちシーンに詰め込む情報量が多すぎるというか。味方チームが2体、敵が3体の、その動きのフォーメーションを図式的に見せるだけでも充分ドラマは作れると思うのだが、この映画はわざとやってるんじゃないかと思うくらい「わかりやすさ」を排除していた。
この「わかりにくさ」をポストモダンだと言い切ることも可能かもしれない。しかし、このようにまわりくどい表現をとらざるを得ないのは所詮この映画が「二次創作」であることの宿命なのかもしれないとも思った。早い話が、監督も夢中になって観ていたはずの往年の怪獣ドラマ/ロボットアニメだったら、ご都合主義もなんのその、全てがひたすら「わかりやすさ」に奉仕していたのではなかったか。
怪獣の登場=東京の危機=日本の危機=世界の終わり、という等式が成り立たなくなった21世紀の創作のジレンマなのかもしれない。怪獣退治に日本のいち防衛システムが対応するだけで済んでいたかつての特撮ドラマとちがい、いまでは全世界を巻き込むシステムが必要とされ、全世界が一致団結するからにはそれなりの政治的・経済的整合性が物語の背景に横たわっていなければならない。これはなかなか面倒なことでもある。たかだか2時間の映画で説明しきれるものでもない。なので観客にはそこらへんのところは一切説明せず、うやむやのままにしておいて主人公チーム無双だぜ、としてもよかったんだろう。この映画ではしかし、地球の危機をそのまま「世界の危機」としてしまったからかえって苦労を増やしてしまったようにも思えた。


「怪獣」の存在理由を明確に説明してしまったこともまずかったのではないか。たとえば初代ゴジラは、人間の行った核実験により目覚めてしまった古代生物だったが、明確に人類を敵対視していたわけではない。人類を滅亡させる目的で東京を襲ったのではなく、あくまで自身の本能のままに暴れ回った結果、たまたま東京湾に上陸してしまった、はずだ。ここで怪獣とは自然災害の暗喩であり、かつ人類がしでかした愚行の象徴であった。しかし今回の映画の怪獣は、明確に人類を排除する目的で組織化されたエイリアンだ。つまり、人智を越えた「大自然」との戦いなのではなく、たんに地球という領土を巡って「外敵」と争う戦争映画となってしまっている。ここが惜しまれる。
敵の目的さえわかれば、そこでなんとか相手と対話を試み、共栄共存の道を探るのが良くも悪くも「日本的」だ。だがこの映画は有無を言わさず相手のルートを断つ、良くも悪くも「アメリカ式」だった。どっちが「正しい」のかはどうでもいい、というか関係ない。けれど、日本の特撮ドラマやロボットアニメにインスパイアされて創られた映画なら、「日本式解決方法」の可能性くらいは映画の中に示していてもよかったのではないか。物語の展開として、それを否定することになっても全くかまわないのだが。
 

ハリウッドドラマの定番ということで言えば、物語のラスト、「なぜか」無傷で生き残ったヒーローとヒロインは、味方の軍隊が迎えに来るまでのわずかな時間で、濃厚なキスをするはずである。しかしこの映画ではそれはなく、ヒロインはヒーローの胸にぐったりともたれかかって、終わる。おいおい、そりゃないだろう、と思った。ついさっきまで死闘を繰り広げていたとは思えないほど元気なキスシーンでしめくくるのがハリウッドのお約束である。ヤンキーの観客はここにおいてようやくカタルシスを感じる、のではなかったのか。ヒロインを演じる女優が日本人だからとかそういうことではない。映画の文法として、誰が演じるのであっても、こういう映画のエンディングはキスシーンで締めくくるのが決まりじゃないのか。


主役とその周辺たちのエピソードはお約束だらけで正直どうでもよかったが、ふたりの科学者はどちらもいい味でたいへん素晴らしかった。むしろこっちこそが主役なんじゃないの、とも思った。香港マフィアのボスもいい感じに笑わせてもらった。この映画の最大の見どころは彼ら三人の演技だろう。