ゼロ・グラビティ

2013年米映画/アルフォンソ・キュアロン監督作品
出演者が事実上二人だけ、しかも約90分間のうち半分以上が主人公の一人芝居というのにびっくりした。


スペースデブリに遭って遭難する映画、とだけ知っていて、それ以上の情報は極力入れないように気をつけていたんだけれども、たまたま読んだ週刊誌のコラムでこの映画の辛評が載っているのを読んでしまった。曰く、あまりに荒唐無稽すぎる、というものだ。主演のサンドラ・ブロック出世作『スピード(1994年)』を引き合いに出し、あの作品と同様のリアリティの無さ、と断じていた。
わたしは『アポロ13(1995年)』くらいにはリアリティを期待していたんだけれども、このコラムを読んでしまってあまりハードルを上げるのはやめよう、と思って劇場に向かった。
しかし、観終わったいま、この映画のシンプルな構成につくづく驚嘆している。
なるほど主人公の生還劇は「荒唐無稽」かもしれない。もしも現実に同じような事故が起こったら、まず助からないのは誰の目にも明らかだ。そこさえ承知の上でなら、この映画はまさしく「奇跡」の物語としてそれなりの感動をもたらす。
この作品が説得力を生み出している理由はさきに書いた「シンプルな構成」で、主役の一人芝居に徹している点。たとえば冒頭、宇宙船の船外活動に従事している登場人物を追うカメラが、スペースデブリに襲われあらぬ方向に投げ出された主役を描写しているうちに、いつしかカメラは主役の目線に変わる。カットが切り替わったことに気づかなかったほどのスムーズな視線移動に驚いた。技術的なことはまったくわからないけど、こういうのってよほど綿密な計算が事前になされていなければできないことではないだろうか。その後も時に第三者的、時に本人目線とカメラは目まぐるしく切り替わるのだけれども、そこに不自然さを極力感じさせないように作られている。

主人公は宇宙船をいくつか乗り継いで最終的に中国の宇宙ステーションから地球に戻るんだけれども、あれはなんで大気圏突入したんだろう? というのがよくわからなかった。たぶん途中のセリフで説明されていたとは思うんだけど(そのうちブルーレイが出たら確かめてみようっと)。それと、中国船の操作パネルがぜんぶ中国語なので読めない、というのはギャグなのかどうなのかよくわからん(宇宙空間では全世界標準言語を使用するとかそういう規則ってないのかな)…と思ってたら、プログラムの解説にこう書いてあった。

ただし現在の中国は宇宙国際協定の多くに関与することなく、潤沢な国家予算のもと独自に研究開発実験を行っている。07年には自国の老朽化した気象衛星を衛星攻撃兵器で破壊するなど本作さながらの事件も起こしている。

。そういえば数年前に中国が自国の衛星を破壊し、スペースデブリを大量発生させたというニュースを目にしたことがあった。
少し前のハリウッド映画なら、きっとそのまま中国を悪役として描いたかもしれない。しかしこの映画では、最終的に主人公が乗り込み地球への生還を成功させたのは中国製の宇宙船という設定にしている。中国へのなんらかの配慮がそうさせたんだろうか? かわりに、主人公が最初に乗った国際ステーションのソユーズの方は燃料切れなどトラブル続き。そもそもの事故の原因といい、この映画でのロシアは散々な描かれ方だ(最初のスペースデブリ発生をもたらしたのはロシアということになっている)。映画の配給で中国市場を念頭に置いた脚本なんだろうかなあ、などと映画館を出たあとしばらく考え込んでしまった。