たまこラブストーリー

パンフレットを見たら、キャスト・スタッフが口々に「恥ずかしい」と語っていたのがおかしかった。
ま、確かに、直球ど真ん中の恋愛映画ではある。生まれたときからお向かいさん、幼なじみもいいとこの高校生ふたりが主人公で、男の子の方は以前から彼女のことが好きだったんだけどなかなか言い出せず、女の子の方はそーゆー方面にとんと疎くて、いざコクられたらなんにも手がつけられなくなっておろおろするだけ。それでも周りの友人たちの後押しがあって、最後にはめでたしめでたし。あらすじだけ書いてしまうと何のひねりもない、これで本当にお話として成立するんだろうかというくらいシンプルなストーリーだ。
それが映画として鑑賞に耐えられるのは、ひとえに登場人物たちの揺れ動く感情を丁寧に拾って画面に定着させていく、その作業の細やかさに他ならないだろう。
これが実写映画で、十代アイドルが多数出演する映画だったら、わたしなどはそれこそ気恥ずかしくて5分も観ていられなかったと思う。アニメーションだからこそ、これだけのピュアな物語を、物語としてちゃんと楽しむことができた。
実写映画だったら…、そう、たとえば恋のライバルだとか、もっと悪意を丸出しにした悪役だとか、そういう役を登場させてストーリーをもっと波乱させていたかもしれない。あるいはどっちかが死んじゃうとか。めっちゃありがちだけど。
この作品には悪人はいない。主人公たちの恋を阻む事件もおこらない。ただひたすら、昨日まで恋愛感情というものを持たなかった思春期の少年少女たちの心の成長だけを追っていて、それ自身がドラマとなっている。
そういうシンプルなお話しだけに、セリフなどでくだくだしく説明せず、ふとした表情や仕草で感情を表現していって、そこが観ていて心地いい。こういう演技・演出が可能なのもアニメーションだからこそなんだろうなあ。

この作品は映画として単体で独立してはいるものの、登場人物の相関関係なんかは一切説明がないので、やはりテレビシリーズ全12話を観ていた人に最も強く訴えかけるだろう(シリーズ中の白眉だった第9話のモチーフが全編にでてくる…というより映画のテーマとなっているのが嬉しい)。映画ぜんたいが説明臭くないのもそのためだ。南の島のお三方が本編にはほぼ出て来ないのは多少寂しくもあるけど、ムリに入れていたらお話しがとっちらかって収拾がつかなくなっていたかもしれない(なので同時上映の短編アニメ、という形で別枠でたっぷり登場させている)。というか、ここであの鳥に活躍されたら、主役たちの成長物語とは違う方向(よくある「日常生活ループもの」)に話が転がっていったかもしれない。テレビシリーズの完結編としてひとつのきれいなエンディングを示せたのは、この作品にとって幸せなことだろう。

脚本で引っかかった点も少しあったけど(学校閉鎖をその日の朝に聞いて、すぐに東京に向かうかあ?とか)、全体としてはテンポ良く進んでダレるところがなかった。主役をとりまく三人娘のうちわたしの一番のお気に入りキャラ(何を隠そう大工の娘であります)がたいへんいい味を出していたのも嬉しい。笑える要素も想像以上に多く、たっぷり楽しめた映画だった。


【ちょこっと追記・0509】
なんだか世間の評判が良いそうで、なにより。
上記の感想文を読み返してみてやたら実写映画のことに触れているけど、実は上映前に少女漫画原作の実写映画の予告編が流れていて、ついそれと比較してみたくなったというわけ。
というのも、その予告編はやたらキスシーンが出てくる(2,3回あったと思う。ライト目のキスに始まって男の方が「本気チュウしちゃうぞ」とか言うのまであったかと)。一方、こっちの方といえば、キスはもちろん抱きしめたりもしない。川に落ちそうになったときに手を掴む以外、お互いの身体に触れようとさえしない。このへんがピュア過ぎるというかなんというか。
わたしらのような中高年層からすれば、やたらキスばっかしてる高校生カップルの映画よりかはこういうプラトニックな恋愛の方が観ていてキュンキュンするんだけど、リアル女子高生なんかだとやっぱダイレクトなチュウだの抱擁だのがある方が良いのでしょうなあ。
生身の人間が演じる実写映画だと、今ドキ手もつながないような恋愛ものなんて、おそらくドラマとして成立しないんだろう。どころかヘタすりゃ妊娠だの中絶だのといったもっと強烈な「設定」を用意しなけりゃ持たないかもしれない(そういや『アデル』も高校生時代からスタートしていた)。アニメーションだからこそ、実写ではどうやったってにじみ出てしまう「性愛」を、上手に隠すことができたんじゃないだろうか。
超オクテでピュアピュアな高校三年生女子ってファンタジーを、しかしここまでリアルに観客に感じさせることができたからこその成功なんだろうなと思う。