THE PEANUTS MOVIE、あるいはルーシーのラグビーボールについて

2015年米映画/スティーブ・マーティノ監督作品
ろくに調べもせず記憶だけで書くけど、ピーナツ・コミックスの劇場映画が日本ではじめて公開されたのは1970年代じゃなかったか。わたしは確かに観に行った記憶があって、ただ2作か3作だかあったようだけど全部観に行ったのか最後の方はもう観なかったか、そのへんはあいまい。第1作の邦題は『スヌーピーとチャーリー』ではなかったかな。違ったかな。ビデオとか出てるんだろうか。
相当昔に観たアニメ映画だけどストーリーはけっこう覚えていて、たしかチャーリー・ブラウンが英単語のスペルのコンテストに出場する話がメインだった。スヌーピーがあちこちに出かけるのだけどことごとく「犬お断り」で追い出されるエピソードも同じ映画だったかな? 低音の男性コーラスで歌う♪イヌーはダメだ〜 という短いフレーズは今でも覚えている。
その映画ではチャーリー・ブラウンスペリングコンテストでまず学校代表になり、地区予選も突破して一躍学校中のヒーローに、でも最後の全国大会でヘマをしてひとり寂しく戻ってくる、という話だった。
タイトルに書いた「ルーシーのラグビーボール」は、原作コミックで何度も登場するエピソードのひとつで、ルーシーがボールを立てる→チャーリーが蹴り上げようとする→寸前でルーシーがボールをひょいと取り上げてあわれチャーリーは空を切ってひっくりかえる、というルーティーン。スペル大会で失敗したチャーリーがしょんぼりと家に帰る。それまでみんなにちやほや持ち上げられていたのに今は誰も話しかけてこない。傷心のチャーリーがぼんやり歩いていると、道端でルーシーが無心にボールを立てている。彼女はラグビーボールを立てるのに夢中で、歩いてくるチャーリーにはまったく気付いていないようだ。ようし、今がチャンス! とばかりにチャーリーが走ってくる。蹴り上げるすんでのところでいつものようにルーシーはヒョイとボールをどける。いつものようにひっくり返るチャーリーに、ルーシーはいつもと同じ口ぶりで言う。「おかえり、チャーリー・ブラウン!」
…たしかそんなエンディングだった。チャーリー・ブラウンがコンテストでちやほやされようがどうしようが、ルーシーだけはいつもと同じように彼と接し、また、大ヘマをやらかそうが彼女の態度はいつも変わらない。そんなルーシーの性格がよく表れたいいエンディングだった。
 
今度の新作映画は3Dアニメだ。ただし近所の劇場では3D上映が遅い時間帯しかなかったのでわたしは2D版を観た。スヌーピーレッド・バロンの空中戦は3Dならではの効果を狙っていたと思うけど、まあ2Dでも充分。それよりも吹き替えの声が軒並み合わなくってちょっとがっかりではある。この手の映画は字幕版の上映がないんだよねえ。
物語の骨格は、かつてのスヌーピー映画によく似ている。劣等生を気に病むチャーリー・ブラウンがひょんな事からヒーローに祭り上げられ(ここの展開はやや無理があるような)、でもそれが崩れ去り、結局またひとりぼっちに(ただし以前の映画と違って、最後に彼に大きな救済が与えられるのがイマ風かな)。で、今回の映画もまた、ルーシーのラグビーボールのルーティーンで締めくくられる。今回の映画はけっこうオールド・ファンを目当てにしてるんだろうか?
ただ、以前の映画では、ラグビーボールは冒頭と最後の2回出てきて、その対比が良くできていたのに対し、今回は最後に1度使われるだけなので、唐突感は否めない。そのかわりに本作ではたこ揚げ(vs.たこを喰う木)のエピソードが繰り返し使われていて、チャーリーの心情をうまく掬い上げている。しかしルーシーのチャーリーに対する態度の一貫性は今作でもきちんと描かれていて、そのあたりは安心して観ていられる。
 
わたしがピーナツコミックスを熱心に読んでいたのは前述の70年代からせいぜい80年代初期くらいまでで、谷川俊太郎訳のツル・コミックスを十数冊集めていたんだけど、今はどこへ行ってしまったものやら。当時の映画のパンフレットももう一度見てみたいものだけど、同じくどこに行ったやら。捨てた覚えはないんだけどなあ。ともあれ、ペパーミント・パティやバイオレット、ビッグ・ペンといった古参キャラがたくさん出てきたのは嬉しかった。対レッド・バロン戦ではウッドストックがカッコ良かったし、おそらくシュルツの原作絵をそのまま使っているな、というカットもいくつもあって、原作をたいへん良くリスペクトしているのがわかる映画だと思った(かわりにライナスやシュローダー(昔はシュレーダーって言ってなかったけ)の活躍があまりなかったのはちと寂し。まあシュローダーはいちばん最初にとびきりの演奏を披露して得意満面だし、ライナスはチャーリーの相談役としてそれなりに出番が多かったんだけど)。
映画館ではふつうに観ていたけど、よくよく考えたらモノクロの原作絵とCGで作られたメインキャラクター群、それに3Dまで(対レッドバロン戦の背景なんかは実写映画なみだ)と、1本の作品のなかに様々なレベルのアニメーション作画が混在していて、しかもそれが何の違和感もなく混じり合ってるってのはかなり凄いことではなかろうか。ダンスシーンのアニメーションなんか特にびっくりした。制作スタッフの愛が感じられる、いい映画でした。

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ここまで書いて、いまamazonを検索してみた。おお、第1作の《スヌーピーとチャーリー》のDVDがあった!カスタマー・レビューによれば1972年日本公開の映画だったのかあ。それと、「イヌはダメだ〜」の歌が出てきたのは2作目《スヌーピーの大冒険》の方だったか。もちろんふたつとも、即座に購入ボタンをポチッとな。
 

【後日追記】
なんで「ラグビーボール」って書いてたんだろ。普通に「フットボール」でいいじゃんね。スヌーピーといやあ冬はアイスホッケーとフィギュア、夏は野球とアメフトってのが定番だったし。…そういやバスケは作中に登場してたっけ?あんまし記憶に無いな。