街の本屋さん

↓を読んだ。
http://magazine-k.jp/2016/01/18/horibe-atsushi-interview-02/

一乗寺恵文社も、この誠光社も、自分のふだんの生活圏ではない。せいぜい「気が向いた時にたまに訪れる」程度だ。ついでに言えば誠光社店主がおそらく参考のひとつにしているはずの三月書房も同じ。
いま挙げたみっつの書店のうち、誠光社はまだできたばかりで、実を言うとわたしも一度しか行っていない。狭い店なのでほんの10分もいれば品揃えはだいたい把握できる。
ラインナップに自分の好みのタイトルが並んでいるか、好みでなくても新しい発見や好奇心が刺激され、思わず買いたくなるか。個性的な小型書店はひとえにそこが勝負だと思う。その意味では、個人的にいちばん刺激を受けるのはやはり三月書房だ。実際の品揃えは昔にくらべだいぶ変わってきたと思うし(先代が店番をやってらした頃はほんとうに尖っていた)、先日立ち寄った時にはそれまでそこそこあったダダ〜シュルレアリスム関係がごっそり減っていたのは悲しかったが、それでもここは棚をずっと眺めていてまったく飽きないし、かならず、最低でも一冊はなにかしら買い求めてから立ち去るようにしている—というかそうせざるを得ない雰囲気がある。
恵文社は、時期によって波がある印象。実は店長が交替してからはまだ行けていない。なので最近のラインナップがどうなのか、ちょっと気にはなっている。奥の方が拡張されてからは以前のような密度の濃さが少し薄れた印象だったのだけど、それでもここでしか買えなかった本(古本も含む)がいくつもあった経験があるので、今後もなるべく行ってみたいお店のひとつなのは間違いない。
誠光社は…スタートしたばかりだということを差し引いても、品揃えに関して言えばちょっとどうかな、という印象を持った。他ではほとんど見たことのないタイトルがいくつもあったのは確かだけど、「これは自分が買うしかないだろ」みたいな、どんぴしゃでぐっときた本はほとんど見当たらなかった。まあ、最近は意識的に本を買うのをセーブしているということもあるんだけど。見境無くあれこれ買い漁っていた十年前なら躊躇無くレジに持って行っただろうな、というのはいくつかあったけど、残念ながらうちの本棚ももういっぱいいっぱいなんだよねえ。
 
どのお店も、生活圏にあったら確実に通い詰めていたとは思う。三月書房だけは今でも入る前にひと呼吸するほど気合いが入るけど、もし「近所の本屋さん」的な使い方ができたらもっと楽しいはず。恵文社は暇な休日の昼下がりに時間を潰すのにもってこいだから、ここも「近所の本屋さん」だったら常連になっていたのはたぶん確実。
誠光社に関しては、一度行っただけのわたしにはまだなんとも言えない。ただ、ここは純粋な品揃えだけでなく、店主の人柄だとかそういう要素を、この中ではいちばん大きく打ち出しているように思えるから、もしソリが合わないと感じたらたとえどんな近所でも寄りつきさえしなくなるだろう。お店の個性ってやはり店主の人間性とかより、どんな品を揃えてくるのかにもっとも現れると思うので、たとえパートさんかアルバイトさんしかいない大型チェーン店でも、自分の関心のあるジャンルに気になるタイトルがずらっと並んでいたらそれだけでファンになるし、少々離れた場所にあっても無理矢理用事をつくって出来るだけ通おうとするものだ。そして、ある店の品揃えとはやはり立地条件がいちばん大きく影響するんじゃないか。ビジネス書が欲しかったらビジネス街にある本屋さんの方がより充実しているだろうし、大学前にあればそれなりの専門書か、あるいは若い世代の流行があるていど見えるラインアップが期待できる、というふうに。繁華街の有名大型チェーン店で珍しい洋書の画集を見つけることも多々あるが、人が多く集まる土地というのはやはりそれだけキャパシティが広いんだなあとも思う。
 
今住んでる土地はほんとに本屋さんが少なくなってきていて、休日に気軽に行けるお店がないのは確かに寂しい。数年前なら、バイクで数十分もまわれば数件の本屋があって、欲しい本はそのうちのいずれかの店でほとんど入手できていたんだけど。先の「土地柄」説を敷衍するならば、いま住んでいる土地は本を必要としていない地域なのだろう。
だから、店主の個性を強く打ち出す小規模書店が増えて欲しいのはその通りなんだけれども、だからといって10店が10店ともみんな自分の好みであるかというと、それはまた別のハナシでもある。個性的なお店ばかりになって、しかしそのどれもがどうも趣味があわず、結局アマゾンがいちばん手っ取り早くていいや、ってことだってあり得るだろう。



そういうリスクはもちろんみなさん承知の上で始めているんだろうし、だからとりあえずは「頑張ってください」としか言いようがないんだけれども、半年後一年後、あるいは十年後、そういうお店がどのように変化していくのかは、できるだけ見守っていきたいとは思う。