ミナトホテルの裏庭には

寺地はるな著/ポプラ社/2016年

著者2作目の小説。デビュー作『ビオレタ』(第4回ポプラ社小説新人賞受賞作、2015年)は半分くらい読んでその先がなかなか進まなかったんだけど(なので未だに読みかけのままだ)こちらは気分よくすっと読み終えられた。なんでだろう。
前作は、男女のややこしい機微みたいなのがずっと続いて、それで読んでて苦痛だったのかもしれない。自分の居場所が見つけられないまままわりに翻弄される若い女性、というキャラクターが苦手だったのかもしれない。人間関係をうまく構築できないからといってそんな簡単に男と寝るんじゃねえよ、とか。
今回は主人公が若い男性で、まわりに振り回されるのは同様だけれども、それでも一応自分というものを持っていて、だからあまり暗くなりすぎずに話がすすんでいく。恋愛に関しても少しオクテで、猫好きの花岡さんが好きなのかどうなのか自問するあたりはよかった。後半、花岡さんから「私のこと好きなの?」と面と向かって問われて思わず否定してしまうあたりとか。でも客観的にみるとどうしたってお互い好意的だろ、としか読めないのだけれども、そういうふんわりした感じが小説世界に似合っていていいと思う。

もともとフィクションは苦手なので、小説もめったに読まない。そういうわたしでもラクに物語の中に溶け込めたのは、ひとえにこのゆるやかな語り口と、リアリティがあるようでないような、ファンタジーのようででもつい隣町に存在しそうな、そんな手触りの良さだろう。
 
『ビオレタ』が正式なデビュー作だけど、著者の小説を始めて読んだのは2014年の太宰治賞の最終候補作『こぐまビル』だ。当時から比べるとだんだん読みやすくなっていて、というか小説の世界がごく短時間ですっと入り込めるように作られていて、そうか、作家の成長ってこういうことなのか、というのがよくわかる。

映像的な作風だとも思うので、いつか映画化とかされるかもしれない。まあ観に行くかどうかは別にして、でもあのやわらかな世界が映像化されたらやっぱりちょっと気になるかな。
まだまだ引き出しというか隠し球をお持ちのように見受けられるので、次作も楽しみだ。