The FINEST HOURS

2016年米映画/クレイグ・ギレスピー監督

実際にあった海難事故を元にした映画。冬の嵐に見舞われた1952年2月18日、マサチューセッツ州沖を航行していた巨大タンカーがまっぷたつ。船長らがいた船首はすぐに沈没したが機関手らがいた船尾側はなんとか洋上に残った。とはいえこのままでは沈没するのも時間の問題。
すぐにボートに乗って脱出するべきという意見が強く出されるが、外は嵐。救命ボートなど一瞬にして木っ端みじんになる。船は舵をも失っているが生存者たちは力を合わせて近場の浅瀬に船を座礁させ、助けを待つことに賭ける。
船内のドラマと平行して、沿岸警備隊の活躍も描かれる(というか映画ではこちらがメイン)。実は同時に別の大型タンカーも遭難しており、メイン部隊はそちらに向かっている。赴任したばかりで周辺の海のことにはあまり詳しくない司令官は、物語の主人公に外海に出ろと命令する。ベテラン隊員達は無理だというが、主人公は救助ボートに乗り込む。
いくつもの大きな津波をずぶ濡れになりながら乗り越えるが、おかげで羅針盤を失い、無線もうまくつながらない。さて沿岸警備隊は無事にタンカーを見つけられるのか、そして船員達を救出できるのか…。
 
 

観た回は字幕付き3Dで、冒頭こそ3Dぽかったけれども物語が進むにつれどうでもよくなる。別に2Dでいいじゃん。…まあそれはともかくとして。
この事件は米国沿岸警備隊史上最大の救出劇らしい。この映画がどこまで史実を忠実に追っているのかはしらないが、なるほどこりゃあ常識的に考えると無謀もいいとこだ。自己犠牲の精神論以外は教科書にも載せられないくらい無謀なパターン。たまたま成功したからこうして歴史に名を残すことになったけど、失敗していたら「そりゃそうだよね」としか思われない、つまりは反面教師としての役割しか果たせなかっただろう。こういう暴挙をも踏まえて現在のような救助活動のルールが確立しているんだろうけど。ともあれ、個人の無謀な冒険が<たまたま>成功に結びつくのがアメリカン・サクセス・ストーリーを成立させている一面であることを、この映画は端的に物語っている、とは言えるかも知れない。
それにしても、だ。小さな救命ボートの規則上の定員は12名。規則を無視しても22名が最大、とか言ってるくせに最終的に船員32名を載せてしまう。隊員4名もいるからあわせて36名だ。厳寒の嵐の海に放り出されながらも最終的に港に無事帰り着くって、それあまりに嘘くさくねえかあ?

巨大な船が沈没する映画っていうと大ヒットしたかの『タイタニック』以来かな。さすがにCGの進化は凄まじく、迫力あるシーンの連続だった。主人公のフィアンセの行動がちょっとそれどうなのよ、と思うところも多いんだけど、最終的にはめでたしめでたしのヒーロー劇となるあたりが正統アメリカ映画らしくもある。
映画ならではの嘘はそりゃもういっぱいあるんだろうけれども、事実がベースにある、というのはやはり強いね。このまえ観た大仰な割に中途半端だった火星映画なんかよりもハラハラドキドキできたし、面白かった。
 
なんといっても、主人公はじめ海に立ち向かう男達の、うつむき加減の視線が強く心に残ったのだ。タンカーの機関手もそうだけど、現実の怖さを充分に分かっているからこその力強さが、日常での自信なさげな表情と対比されていて、彼らの本領がよく表現されていたように思う。説明的なセリフで語ることをしないという、これはいい演技といい演出の相乗効果がもたらした映像表現の勝利だろう。



劇中で主役達が歌い、かつエンディング・テーマ曲ともなっていたシー・シャンテがしみじみいい曲だった。サントラ盤のアルバムを買うほどではないけど、このテーマ曲だけでもiTunesで探してみようかな。

…っていまAmazoniTunes Storeを検索してみたけど、全然見つからねえ。うーむ。
 
【追記】
映画邦題の公式サイトに行ったらサントラへのリンクがあり、iTunesAmazon等の通販サイトへの誘導もあった。ただしお目当てのシー・シャンテは単独では買えない仕様になっていた。
曲名でYoutubeを検索したら映画ヴァージョンではないのが見つかった。原曲はトラッド・ナンバーなんで当たり前ではある。個人的にももっとルーツっぽい歌唱が聴きたかったので、まあこれが見つかりゃサントラを買うまでもないか、と。
いやその、映画版が単独で購入可能だったらたぶん即購入してたと思うんだけどね、そうじゃない売り方をしていたのはかなり残念だった。たぶんテーマ曲だからこそ勿体ぶって単独売りをしない方針を取ったと思うんだけど、こちらとしては「じゃあ別にいらないや」となっちゃいました。あしからず。