WAT世界のアニメーションシアター2016

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同じ立誠シネマでAプロ・Bプロ両方を観てきたので、こちらも感想を残しておく。
Aプロが<いろいろな愛のかたち>を描く5作品、Bプロが<社会的視点をもつ>5作品。アニメーションとはいえ子ども向けのものではなく、一見子どもむけ風に見えて細部でどきっとする描写があったりする。たとえば鳩時計視点で描かれた『ビトイーン・タイムズ』では、男女カップルの初夜がかなりあからさまに出てくるし(つってもまあ「性教育動画」の範疇なんだけど)、物語のエンディング自体もけしておとぎ話的なめでたしめでたしではない。
また、少女の空想のともだち(他人には見えない)が不妊症に悩む夫婦にさらわれてしまう『Otto - オットー』という作品は、かなり病的な物語で、無理矢理ハッピーエンド風に持って行ってはいるものの後味の悪さが後を引く。それから『ちいさな芽』という作品は環境問題がテーマだと思うが、こちらも一見無邪気なようでいて、なかなかにバッドテイストだった。
良かったのは第88回のオスカーにもノミネートされたという『真逆のふたり』。ことあるごとに喧嘩している仲の悪い夫婦=一軒家の中でそれぞれ上下逆さまの世界に暮らしているという視覚表現がわかりやすく、かつアニメーションならではの表現だろう(実写だったら、小道具のディテールなどにまつわる矛盾をここまで都合良く省略できないはず)。ストーリーも最後までぐいぐい引き込まれたし、ラストにはほろっと来た。明日への希望をも感じさせるいいお話しだった。
もうひとつのお気に入りはブラジルの女性作家による作品『ギーダ』。中年(劇中、勤続30年で表彰されるシーンがある)というにはちょっと初老に差し掛かっている女性の鬱屈した日常生活と、絵画クラブへヌードモデルになりに行くというちょっと非日常的な冒険を、巧みなデッサンで描いた作品で、描線が画面一杯に踊るさまはこれぞアニメーション! と叫びたいくらい生き生きとしていた。5作品中3つまでがクレイアニメで、わたしはどちらかというと平面作品の方が好きなので、余計に『ギーダ』が印象に残ったということもあるけれども、とにかく絵を描くことの嬉しさ、楽しさがこんなに詰まったアニメーションも珍しいのではないだろうか。いやあ、いいものを見せてもらいました。

Bプロは『ホワイトテープ』『ブラックテープ』の2作が実験的なショート・ムービーでひときわ異彩を放っていた。実写映像をもとにしているとのことで、(たぶん)兵士と一般市民との殺し合いが描かれている。ストーリーものというよりむしろイメージ重視なので、映像世界に入り込む前に唐突に終わってしまった、という印象だけが残った。
サンティアゴ巡礼』はたぶん作者の実体験をもとにした、いわばエッセイアニメーションとでも言おうか。おそらく土地勘のあるヨーロッパ人ならもっとリアリティをもって受け止められただろう。色彩や描かれたフォルムの完成度の高さは見応えがあった。
聴覚障害者のカップルによるラブストーリー『触感のダンス』はAプロ(いろいろな愛)でも良かったような気がする。アニメーション的なメタモルフォーゼの表現は素晴らしいものの、物語的には主役の二人が聴覚障害であることの必然性がいまひとつ薄いようにも感じた。クライマックス、遭難した女性を探し出す場面でも「声が使えない」ことがドラマのサスペンスに役立っているようには思えなかったからだ。しかしタイトルにあるとおり、ほとんどダンスをしているようなダイナミックなアニメーションには目を見張らされた。
10作品の中でいちばんの超大作であり問題作だろう『アフガニスタン - 戦場の友情』は、アフガンの戦地に派遣されたデンマーク兵たちの実話に基づく物語だそうで、ハードボイルド、というにはあまりに生々しい描写がリアル。物語がぶった切るように終わる流れも見事。序盤、登場人物の関係がよく把握できなくてそれがしまいまで響いてしまったが、たぶんもういちど観たらすっきり分かるに違いない。ビジュアル的には全作品中もっとも「アニメ」っぽいけれども、シーンの緊迫感や登場人物たちの非情さなどを含め、重厚なドラマ性はいちばん高い。

DVDなどパッケージ販売はされないのかな。まあYouTubeでもいいんだけど——と今ちょっと検索してみたらひとつみつかった。
GUIDA - BY ROSANA URBES https://www.youtube.com/watch?v=c5xB5b3dQK8
そういえば本作でも主人公がおしっこしている場面が堂々と出てきてびっくりしたんだった(音が妙にリアルだ)。そういうところを含めて、女性の老いた身体にきちんと向きあっているのが本作のとびきりの魅力でもある。
(追記:そうだ、この作品は、わたしが好きなフランスの漫画家ジャン・ジャック=サンペに似ているんだ。設定の世界観や物語の組み立てかた、そして絵のスタイルまで、サンペ世界を彷彿させる。や、マネしたとかそういうのではないんだろうけど。でもサンペをアニメーションにしたらきっとこうなるんだろうなあ)