桃太郎 海の神兵/くもとちゅうりっぷ

デジタル修復版ブルーレイディスク購入(松竹/SHBR-0384/2016年)。
アニメーション作品としての完成度の高さだけは古くから良く知られていて、ただ太平洋戦争中の国策プロパガンダ映画だったため長らく一般の目に触れる機会がほとんどなかった「桃太郎 海の神兵」。わたしが観たのは1980年代半ばごろだったかと思う。調べれば正確なことが書けるんだろうけど、とりあえず今は記憶だけをたよりにする。映画会社の倉庫からフィルムが発見→解説付きで全国各地の(映画館ではなく)市民会館とか大学の講堂みたいな場所で限定公開、みたいな流れだったかと思う。京都市内の、どこで観たのかまでは記憶にないけど、京大の講堂みたいなところだったか、府か市の施設だったか。いずれにせよそこそこ公的な場所で観たはずだ。昨年亡くなられた今江祥智さんが観客として来られていて、嬉しそうにしてらっしゃったのだけは鮮明に覚えている。
その時も「神兵」「ちゅうりっぷ」の二本立てだったはずだ。個人的にはわたしは「くもとちゅうりっぷ」目当てで、1時間以上もある大作「神兵」の方は半分うとうとしながら観ていた。古いフィルムだからキズもものすごく、また会場も映画を専門に見せる部屋ではないから音もよくない。セリフだって聞き取りにくく、わざわざ観に行ったにもかかわらず「早く終わらねーかな」などと思いながらその場にいた。

それ以来すっかり忘れていたんだけれども、このたびデジタル修復版が出るというので思わず購入。いま再生しながらこれを書いている。
修復版だから当然なんだけど、キズ・ノイズの全く無い画面は不思議な感じがする。モノクロ映画だけれどもにもかかわらずカラフルな印象を与えるのはアニメーションならでは、と言っていいんだろうか。
画面の手前から奥、あるいは下から上へ。遠近感を強調した躍動感のあるカットが多く印象に残る。登場人物は主役の桃太郎を除けばほとんど動物ばかりなんだけど、四足で駆け抜けたと思えば次のシーンでは擬人化された二本立ちで歩き回るなど、自在なアニメーションぶりが楽しい。



「くもとちゅうりっぷ」は「神兵」以上に画面が鮮明になっていてびっくりした。かつて観たときはほとんどディテールがわからないくらいに荒れた画面だったんだけどなあ。よくぞここまで修復したものだ——とジャケットを改めて見てみたら、こちらは<デジタル復元版>となっているのね。まあ、修復ならぬ<復元>というのは納得だ。これが見られただけでも買って良かった。それにしてもテントウムシ少女のなんともコケティッシュなことよ。
この映画をつくった政岡憲三については、本ディスク解説も書いておられる萩原由加里さんの著書「政岡憲三とその時代 「日本アニメーションの父」の戦前と戦後」(青弓社/2015年)に詳しい。買った当時ざっと読んだきりだったんだけど、これを機会にもういちど読み直してみようっと。

ちなみに、ディスクにはいわゆる特典映像的なおまけは一切ない。デジタル修復の技術的な解説とか、5〜10分程度でいいからちょっと見てみたかったところではある。