SONG of the SEA

2014年/アイルランドルクセンブルグ・ベルギー・フランス・デンマーク合作/トム・ムーア監督作品
 
アイルランドの伝説をベースにした物語。絵も音楽も素晴らしく、93分間があっという間だった。


日本製のアニメーションは、これは最近の流行なんだろうけれども、実在の土地・場所をこれでもかと美しく精密に描く美術が特徴だ。それはそれで観ていて圧倒させられるし、いわゆる「聖地巡礼」の楽しみもあるんだろうけれども、そういう作品ばかりだとちょっと胃もたれしてしまう。その点、この作品のアートワークはまさにどんぴしゃで好みだった。絵本がそのまま動き出したような、と表現するのがいちばんふさわしいだろうか。一方で、実験的なアート・アニメーションにありがちな難解さはかけらもなく、登場人物の動きなんかは日本のアニメ風でもあり、とてもわかりやすい。パンフレットによればトム・ムーア監督はスタジオジブリなどをずいぶん研究したらしく、少なくとも影響下にあることは間違いないだろう。
キャラクターデザインはいかにも子ども向けという感じだけれども、主役である幼いシアーシャがときどき髪をかき上げる仕草があって、そこがなんとも色っぽかった(たしか3〜4回でてきたはず)。静止画で見るのと映画館で動きがついたのを見るのとで印象がこんなに変わるのか、と驚いた。芝居も丁寧だし、静と動のメリハリも非常に効いている。


物語はハロウィンの一夜がメインとなる。ここ数年、ハロウィンというとただの仮装パーティーみたいな扱いを(日本では)されがちだけど、ここでは人間と精霊が触れあう大切な日として描かれている。このあたりの感覚はさすがアイルランドと言うべきだろう。
もうひとつ、この作品は「うた」や「物語」が伝承されていくことの大切さを描いた映画でもある。母から子へ教え継がれるうた、精霊シャナキーが語り継ぐ物語。そのひとつひとつが、どれも深い慈しみをもって表現されているのだ。音楽を担当しているのはキーラで、これがまた泣かせます。アイリッシュ・トラッドファンにはおなじみの楽曲(『Dulaman』)が出てきたときには、思わずにやにやしてしまった。しかも物語のなかでけっこう重要な契機となるうただったりするし。


字幕版で観てすっかり満足したんだけれども、吹き替え版も実はちょっと気になっている。もういちど劇場に足を運ぶべきか、きっと販売してくれるであろうブルーレイを待つ方がいいか…いや、出るのかなあ。
トム・ムーア監督の第一作は「ケルズの書」をモチーフにした『The Secret of Kells(2009年)』だそうだ。日本では映画祭などのイベントで何度か上映されたらしいが、わたしは未見。アマゾンをのぞいたら米国盤BDがあったので思わず注文してしまった。たぶん言葉はなにひとつ聞き取れないと思うけど、まあいいや(笑)