SULLY

2016年アメリカ映画/クリント・イーストウッド監督作品

外国映画の邦題にセンスがないとかなんとか、定期的にネットでも話題に上ることがあるけれど、この映画の場合は『ハドソン川の奇跡』という邦題以外にいいタイトルは思いつかない。つーか、この原題で観に行こうと思えるのは事故のことをよく知っていた人くらいじゃないのか。

2009年1月、ニューヨークで起こった実際の飛行機事故を題材にした映画。バード・ストライクによる両翼エンジンの停止、近くの空港に戻ることもできずに飛行機はハドソン川に緊急着水。1月の厳寒下、乗客乗員あわせて155名はひとりの死者を出すことなく全員無事救助された。当時の関係者はみな今も生きているし、当時副機長だった人などいまだ現役のパイロットだ(エンドロールによれば着水後の救助隊員などで“本人役”で出演している人も多い)。パンフレットのスタッフ/キャストインタビューなどを読む限り、この映画は実際に起きた出来事を可能な限り忠実に再現していて、メロドラマ的な脚色は一切行っていないという。
だから飛行機事故シミュレーションとしてとてもよく出来ていると感じたし、あの事故をここまで再現できる映画表現ってすごいなあとも思った。
最後まで沈着冷静な態度をとり続けた機長もすごいが、物語の上で敵役となる調査委員会の面々など、主要登場人物のほとんど全員が「その道のプロ」である。敵役とはいえ理不尽で意味不明な存在などではけしてなく、事故の真相を究明する上で絶対に必要なプロセスに過ぎないのだけれども、40年以上にわたるパイロットの「一瞬の判断」をそれこそ重箱の隅をつつくように執拗に追求しつづけるのは、いち観客が観ていても精神的にかなりキツイ。わたしなんぞには到底つとまらない職業なんだなあと思った。

やたら泣き叫んだりやたらBGMが盛り上がったりするような、過度な演出は一切ない。淡々と、それでいて緊迫感が途切れることなく、約1時間半というコンパクトな尺で収めた作り方もまた、登場人物たちと同じように「その道のプロ」の仕事だろう。どんぴしゃで自分好みのドキュメンタリータッチで、いい作品を観たという満足感に浸れる映画だった。