Super Folk Song ピアノが愛した女。

坂西伊作監督作品/1992年/ソニー・ミュージック・エンターテインメント/日本

矢野顕子のレコーディング風景を撮ったドキュメンタリー映画。25年ぶりに『デジタル・リマスター版』と銘打っての劇場公開だ。
もっとも、わたしは25年前は映画館では観ていない。かわりにレーザーディスクを発売すぐに入手し、家で何度も繰り返し観た。今でもディスクは手元にあるものの、肝心のプレイヤーがぶっ壊れていて(電源は入るもののトレイが開かない)すでに宝の持ち腐れ状態だ。まあ、今度のも早々にブルーレイとして発売されるだろうなとは予想がつくものの、やっぱり気になったので映画館まで出かけた。限定2週間のみの上映、しかも上映館も限られている。価格も普通の映画より高く、2,300円もする。それでも劇場に足を運んだのは、ひとつにたいへん集中力を要求する映画だということと(四半世紀前はそれこそテレビの前で息をひそめて画面を見つめていたものだが、今その集中力が保てるかどうか怪しい。映画館なら否応なく画面のみに集中できる)、やはり『デジタル・リマスター版』の音がどんなものか確かめてみたかったからだ。
購入したレーザーディスクは、結局何回見返しただろう? 10回近くは観ただろうか。20年以上ぶりに観たそれは、覚えているディテールもあればすっかり忘れていたところもあって、それなりに新鮮な気持ちで対することができた。
劇場で映画を観て、いちばん驚いたのは、ノイズだった。ヒスノイズというのかホワイトノイズというのか専門用語は知らないけれども、シャーッというやや高音のノイズが、ほぼ全編にわたって響いている。映画の冒頭、撮影キャメラのノイズが録音に影響されているんじゃないかという問答があり、結局ソレは撮影機材のせいではないということになったんだけれども、それどころじゃないノイズが、演奏中ずっと鳴っている。
最初、上映機材のせいなんだろうか、この映画館特有の現象なんだろうかと思った。しかしそのノイズは、画面の切り替わりに応じて高く低く、また大きく小さくなっている。あきらかにこのノイズは、撮影された画面と同時に収録されているものにちがいない。

25年前といえばすでにコンパクト・ディスクの時代だし、録音機材も徐々にデジタル化しつつあった。しかしながら、本作のレコーディングはテープを使っていて、なかばアナログでもあった。この映画に通奏低音のようにひびくノイズは、そのせいなんだろうか? わたしにはそこまでの専門的なことはわからない。
かつてレーザーディスクを家のテレビで観ていた時には、こんなノイズなんてまったく気付かなかった。オーディオに特化した機材なんて持っていないし、そんなに大音量で聴くこともなかったから、仮に入っていたとしても聞こえていなかったのだろう。
デジタル・リマスターの作業において、このノイズを消すことは出来なかったのだろうか。技術的に可能として、けれどもここに「残って」いるのは、どういう理由なんだろう。はっきりとした意志を持ってノイズを残したとしか考えられないのだけれども、じゃあその理由は? 何度考えてもわからない。