月のぶどう

月のぶどう/寺地はるな著/ポプラ社/2017年

前作『ミナトホテルの裏庭には』から約一年、書き下ろし長編としては3作目にあたるはず。
大阪府下の架空のワイン醸造家を舞台にした物語で、今作も登場人物のそれぞれがそれぞれにくっきりと立っていて、面白かった。前作までと違ってふわふわと謎めいた人物が少なくなったかな、でもその分、みんな色んなものを抱えながらそれでも明日も生きていくんだ、という強い気構えが感じられる。どこかファンタジー世界の住人のように感じられたこれまでの小説から一歩踏み込んで、より現実世界へ近づいたような。
唯一、森園君が物語の半分くらいで退場したのだけが気になったけど、それ以外の登場人物にそれぞれのこれからの希望をイメージさせる終わりかたもいい。
『ミナトホテル』は2時間くらいの映画にすればいい感じ、と読んでいて思ったが、こちらはテレビドラマが似合うかも。季節の移ろいとか時間の流れにあわせて主人公たちの気持ちが変化してゆくさまがそう思わせるのだろう。いずれにせよ、この作者の書く文章はいちいち映像が鮮明に浮かび上がる。そこが魅力なんだと思う。
これまで小説をほとんど読まないで生きてきた自分としては、デビュー作(というかその前からだけど)から新刊をリアルタイムで買っているのはこの小説家が生まれて初めてとなる。いつまで続くかはわからないけれど、この先、もうしばらくは追いかけてみようと思っている。