夜は短し歩けよ乙女

2017年/湯浅政明監督作品

いやあ面白かった。や、原作風に言うなら“オモチロかった”、かな。
TVアニメ『四畳半神話大系』が好きで好きで、一時はDVDを毎晩欠かさず観ていたくらいだったので、その時のスタッフ再集結というこの映画はなにを置いても観に行かねばなのだった。で、実際に観てみたら、あのときよりも数倍、いや数十倍くらいパワーアップしているのが嬉しくもあり、かつ一番の驚きでもあり。監督のやりたいことが隅々まで充満してるなー、という感じだ。
もともと原作小説からして、なんだかよくわからない魅力を湛えた世界だろう。あらすじ、登場人物、設定などなど、どれをとっても一口でまとめられないややこしい。それ故にひとたびハマってしまったら簡単には抜けられない、底なし沼のようなお話しなんだと思う。時間軸も、原作は春から冬へと四季を巡る物語だ。そんなケッタイな小説を、いったいどうやって1時間半という尺の映画に収めるんだろう…まさか最初の飲み比べだけでまとめるとか?でも登場人物にはパンツ総番長とか出てくるしなあ…などと思っていたら、さすがは上田誠さん。見事にすっきりとまとめてくれた(全ては長い一夜の出来事、というアイディアは湯浅監督の発案らしいが)。
映画冒頭こそ、ちょっとおとなしいというか人物関係が少しわかりずらいかな、と思っていたけど続く古本市の頃にはそんな危惧はどこかに吹き飛んで、一気に映画世界にのめり込む。学園祭のゲリラ演劇がミュージカル仕立て!というのにも大笑いしたが、最後の風邪お見舞い行脚に至ってはその独自の表現世界に度肝を抜かれる。クライマックスの暴力的なまでのスペクタクルは、湯浅監督も参加していた映画『クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』のラストシーンをさらにスケールアップさせたものなのかな。激しすぎる上下降を描く動線は、ここぞとばかりに映画の魅力/アニメーションの醍醐味を見せつける、まさに湯浅ワールドと言っていいものだろう。

原作が森見小説の中でもいちばん人気とあって、もっとこじゃれた(旬のアイドルを主演に抜擢するような)恋愛モノにまとめるのかという懸念もいだいていたけれど、そんなちゃちな予測をあっさりと裏切ってくれたのはとてもとても嬉しい。アニメーションならではの、そして湯浅監督+四畳半スタッフならではの完成度の高さには恐れ入るばかりであります。入場者特典の第二弾を貰うためにも、来週もう一回行くどー!

【ちょこっと追記】
『四畳半』と『有頂天』、そして今回の『乙女』と『有頂天2』と、見た目はおよそ正反対の作風とも言える“アニメ化”が立て続けに公開されること自体、この作家の大変な才能なのだろう。どちらか一方のテイストしか受け付けない視聴者もたぶんたくさんいるだろうし。わたしは取り立ててて熱心な森見ファンというわけでもないのだけれども、ここまで振れ幅が大きく異なる“自作の映像化”を、しかし涼しい顔をして同時に受け止められる原作者の懐の深さには、やはり畏敬の念を抱かざるを得ない。