夜明け告げるルーのうた

2017年/湯浅政明監督作品
事前情報をできるだけ避けて(それでも人魚の女の子が出てくるお話しだ、ということは知らされてしまったが)封切りを楽しみにしていた作品。先月の『夜は短し歩けよ乙女』もたいへん素敵だったが、こちらも実にチャーミングだった。
心を閉ざし気味な主人公カイと、天真爛漫な人魚ルー、ふたりの交流だけで話が進むファンタジーかと思ったら、途中で街の大人たちがわらわら出てきて、リアルさが顔を出す。そのふたつのバランスというかさじ加減がなかなか興味深かった。
わたしは宮崎駿監督の『ポニョ』は未見なんだけど、東日本大震災以後、津波が出てくるというので封印された、という噂を聞いたことがある(事実かどうかは知らない)。しかしこの『ルー』は、街がまるごと水没してしまうという大災害を描いている。ああ、この作品も「あの震災以後」の物語なんだと感じ入った。昨年大ヒットした『君の名は。』よりもはるかにストレートに、津波に呑み込まれる街や逃げ惑い流される人々をたっぷり描写しているのだ。そんな彼らを助けて安全な高台にまで運ぶのがルー親子をはじめとする人魚たち。古くから<人魚は人に災難をもたらす>という伝説が伝わる田舎町での、この鮮やかな大逆転こそがこの映画の最大のカタルシスなんだろうと思った。
湯浅作品ならではのポップな色彩とダイナミックに上下する構図、いきなりみんなが踊り出すシュールなおかしさなどなど、「笑いながら泣ける」映画の楽しさが充満していたと思う。うん、実にいい映画でした。

【同日追記】
そうそう、思い出した。和尚さんの造形がなんとなく樋口師匠だったことと、町民みんなのダンスシーンでひとコマだけ、のはらしんのすけっぽい男の子がいたような気がしたのがおかしかった。カイのポーズもところどころ過去の湯浅作品を思い出させるところがあって、劇場で観ている最中ずっと心がざわざわしっぱなしだった。音楽もみな素敵だったし(サントラCD出ないのかなあ…)いずれ出るだろうブルーレイディスクも今から心待ちだけど、せめてもう一回は映画館で観ておくべきなんだろうなあ。

【さらに追記】
ネタバレというか映画の核心に触れる部分のことをひとつ。上で、大洪水時に人魚たちが街の人々を救ったと書いた。
映画では人魚を明確に仇として描かれている老人がふたりいて、いずれも若い頃に大切な人を人魚に食われている(母親であったり、恋人であったり)。大洪水が発生し、あたりに人魚が飛びはね回るようになって、ふたりの老人は意を決したように海へ出る。仇を今こそ取ろう、という決意だ。
結論から言うと、ふたりの老人は“帰らぬ人”となってしまう。しかし、その過程で両者共にきちんと、長年の恨み辛みへの解決/救済が与えられていて、とても印象に残った。現世での再会は二度と叶わなくとも、常世に行ってしまえば永遠に生き続けられる。この寓話的な死生観が物語ぜんたいに深みを与えているのだと思う。

【もひとつ追記】
ブルーレイのオーディオコメンタリーで、あの印象的なダンスシーンについて、ほら例えばリバーダンスとかタップとか…と監督が語っていてびっくり。そっかぁRiverdanceかあ。(2017/10/19)