:夕べの夢の話

なぜか家族でドイツに来ている。空港からベルリンに向かうはずが、途中で知り合いの知り合いの友人だか、とにかく自分とはまったく面識のないひとの家に立ち寄ることになった。
彼女は日本人で、ドイツに暮らして長いようだ。仕事は映画の色彩設計だという。アニメーションならともかく、実写映画でそんな役職があるのかとびっくりする。その時はなるほどねえ、と仕事ぶりを眺めながらひたすら感心していたんだけど、目が覚めてから冷静に考えると謎の多い仕事だ。場面ごとに登場人物の小道具の色を考えて、画面に統一感を持たせるっていうことらしいのだが、登場人物の持ち物がシーンが変わるたびに変わっていたらややこしくてしょうがないだろう。まあ、このあたりはいかにも「夢の中」である。
彼女のダンナはドイツ人らしいのだが、まだ帰宅していないようだ。郊外のコジャレた一軒家で、幸せに暮らしているふうなのだが、わたしたちはどうしてここにいるのかよくわからず、いささか居心地が悪い。そうこうしているうちにメシの時間になり、気が付いたらそこで眠っていた。というか時差の関係なのかおしゃべりしている最中からずっと眠かったのだ。夢の中でやたら眠いなあと感じているのも奇妙なことだが。
わたしたちはあらかじめベルリン市内に宿をとっていたのだが、連絡もしないままに一泊キャンセルしてしまった。このあともホテルには何泊かする予定なのだけど、大丈夫だろうか。急いで電話しなければならないのだが誰もホテルの名前を知らなかったことに気付く。だいいちドイツ語ができないので、どうすればいいかもわからない。とにかく早くこの家から出なければ。


――ここで一旦、うっすらと意識が戻る。なんでベルリンやねん。と自分の夢にツッコミを入れたのを覚えている。すぐにまた眠りに落ち、短いが混乱した続きを見た。

いつの間にかベルリンにいる。デパートのようなところで売り場を眺めている。ディスプレイが面白いなあ、などと思っている。さて宿はどこかいな、とうろうろ歩き回っているうち、また例の家の中に戻っている。え、この家でさらにもう一泊するの? それはいいが、何もやることがないのも辛いものだ。せめて食事の手伝いくらいさせてくれ、と言うが取り合ってくれない。暇なので家のあちこちを見て回る。階段の踊り場の飾り棚にちょっと触れたら飴細工のようにぐにゃりと曲がってしまい、元に戻せない。うわああ…、というあたりで朝になった。


夢の続きは時々見る。たいていは最初の設定が徐々にぐだぐだと崩れて行き、混乱しているうちにバッドエンド。当然、目覚めはよくない。
続きではなく、同じシチュエーションの夢なら数年、いやもっと長いスパンでよく見る。ああまたこの設定か、と夢の中で思っていたりする。ただ、今朝のようにドイツにいる夢というのは初めてで、いまベルリンに行きたいわけでもないのにどうしてなんだろう。実際、夢の中でも、わたしたち一家はここでなにをすればいいのかわからずただ呆然としていた。
わたしの見る夢でもうひとつ特徴的なことがある。夢の中ではまず乗り物に乗れないのだ。乗り込んだバスはいつまでたっても発車しないし、電車に乗るために駅の構内外をいつまでもぐるぐる駆け回ったりする。あるいは降りた駅が目的地と全然違うことが分かって、別の電車を延々待っている。かと思えば、飛行機の搭乗口にたどり着くまでにシチュエーションも設定も変化して全然別の夢に変わっていたりする。例外的に、自分で車を運転していることが数回、長い長いエスカレーターに乗っているのが数回あったが、それとて目的地には決して着かない。どうやら夢の中のわたしは、いつまでも来ないゴドーを待っている側ではなく、絶対に待ち合わせ場所にたどり着けない、ゴドー自身になっているようだ。