はじめて聴いた音楽

ものごころついてはじめて、というならテレビから流れてくるコマーシャルの音楽がいちばん最初なのではないかと思う。♪イトーに行くならハ・ト・ヤ、電話はヨイフロ♪とかそういったたぐいのものだ。ちなみにこのCMソングの歌詞に影響されたのか、3〜4歳のころ自分で“作詞作曲”した歌をがなっていたことがある。「ギララのうた」という題名で、そういう名前の怪獣を主役にした映画が当時あったことはのちに調べて判明したが、わたしがその映画に連れて行ってもらった記憶はない。「ギーラーラー ギーラーラー さーじを持ーつー よんいちにいさん よんいちにいさん さーじを持ーつー」メロディまでいまだにぜんぶ記憶しているのは<三つ子の魂なんとやら>と言っていいのだろうか。
もちろん歌詞にまったく意味はないのだが、選んだ言葉についてはそれなりに自覚的だったことは覚えている。たぶん“匙を投げる”という慣用句を周囲の大人のだれかが口にしたのを聞いて、じゃあ持たせてみようとしたのだ。また“4123”という数字は当時からなんの意味も持たないものと理解しつつ歌っていたが、ハトヤの“ヨイフロ”が頭にあったのは間違いない(ハトヤの歌には<ヨンイチニーロク ヨンイチニーロク やっぱり決めた ハトヤに決めた>というフレーズがある)。


父親はオーディオが好きで、まだ珍しかったステレオ再生装置なんかも家にあった。レコードもいろいろ買っていて、映画音楽や軽音楽(ニニ・ロッソとかポール・モーリアとかの「楽団」もの)のアルバム、子供向けには児童合唱団のうたう童謡だとか、そういえばたまに浪曲もかけていたな(コミカルな顛末の「森の石松」くらいしか理解できなかった)。親戚のおじさんはモロに団塊世代のひとだが、その家にはビートルズや日本のフォーク(森山良子など)のLPがたくさんあった。何度となく聴かせてくれたはずだが、ビートルズはまったくちんぷんかんぷんだった。


はじめて買ってもらったレコードはなんだっけ? 小学生のころの筈だが、LPレコードではたぶんアグネス・チャンのデビューアルバム(草原の輝き、ってタイトルだっけ)だったかと思う。その次は宇宙戦艦ヤマトのサントラだった気が。いずれにせよレコードは高額なので、そうおいそれと買って貰えるものではなかった。
中学生になって友達と新京極商店街に行ったとき、こづかいで高石友也のシングル盤(受験生ブルース)を買おうとしたら10円だか20円だか足りなくて、店のおっちゃんに負けてって頼んでも当然ダメ、一緒に行った友達にも貸して貰えず、結局そのレコードはその友達が買って帰ったことがある(ちなみに言うとそのレコードは当時としてもじゅうぶん懐メロの類だ)。以上、小・中学生のころの「 レコードにまつわる記憶」といったらそのくらいかな。

深夜ラジオは中学生の終わりくらいから聴いていたはずだが、そこいらへんの記憶はもう半ばあやふやだ。 高校生になってフォーク部に入って、ようやく今につながる音楽趣味がスタートすることになるのだが、下地は中学生時代にすでにあった。高校受験前にギターを買ってもらったか試験が終わった直後だったか、ということはその頃にはもうフォークソングにかなり興味があったはずなのだ。
入部して早々、先輩に「憂歌団」を教えてもらった。楽譜も貸してもらったが、それまでG・C・Dのスリーコードでできる簡単なフォークやブルーグラスばかり好んでやっていたから、そんなの難しすぎて弾けるわけがない。結局、わたしの高校時代はブルーグラスばかりやっていた。ちなみに同級生たちは、男子はアリスとさだまさし、女子部員は中島みゆき谷山浩子しかやらなかった。部員ではないがビートルズコピーバンドをやっていた同級生もいた。クラブの後輩連中はもう叙情的なフォークには見向きもせず、ロックかより派手なニューミュージックが多数となっていた。
高校時代もレコードなんてそう手軽に買えない。3ヶ月にいちどくらいだか、仲間と一緒にレコード店にでかけ、それぞれ一枚ずつ買ってあとでみんなで回したりしていた。当時から少々ひねくれていたわたしは、ばりばりのニューグラスを買いたい気持ちを抑えてわざわざオールドタイムや New Lost City Ramblersなんかに手を出し「なんでそんなの買うんだよw」と仲間内からあきれられていた。金がないなら素直にいちばん欲しいものを真っ先に買えばいいのにねえ。

ブルーグラス以外の民族音楽系はというと、おそらくフォルクローレが最初だったと思う。地元の公民館かなにかで、アマチュアの愛好家サークルのひとたちの演奏を聴いたのが中学生の頃だったかな、鮮やかな民族衣装やそれまで目にしたこともない変な楽器が強く印象に残った。すぐに地元のレコード店フォルクローレのレコードを探したが今と違って「ワールド・ミュージック」なんて言葉もない時代、「民族音楽」の棚なんてほんの数枚しか並んでいない。そのなかでもフォルクローレはまだ人気のある方だったと思うが(他はどういうのがあったんだろう?ロシア民謡だとかアルプスのヨーデルだとか、あるいはマンボとかタンゴとか、そんな感じだったかな)結局自分でレコードは買えず、親戚だか友達だかからカセットテープをダビングしてもらい、そいつを繰り返し聞いていた時期があった。


…書くのに飽いてきた。この続きはその気になったらいつかそのうち。