MOOMINS on the RIVIERA

 2014年フィンランド・フランス映画/監督:グザヴィエ・ピカルド、ハンナ・ヘミラ
 
 正直なところ、事前にあまり期待していなかったんだけど、思いのほか良かった。特にアートワークと音楽が素晴らしい。
 
 
 ストーリーの原作は小説版ではなくコミックスの方。大筋はコミックス通りだが、原作には出番がないスナフキンをいいところで登場させたり、同じく原作にいないミムラとミイの姉妹を活躍させたりと、映画版ならではのサービス精神も嬉しい。
 デザインといい色彩といい、このセンスの良さは北欧ならではと言っていいのかな。アニメーションそのものは中国のスタジオで制作されたそうだけど、日本のスタジオが受けていたらまた違ったテイストに仕上がっていたのかもしれない。
 リヴィエラというとイタリアからフランスにかけての有名リゾート地だが、ここの舞台はフランス側だろう。富豪やら映画スターやら高等遊民とでも呼ぶしかないような有象無象など、あらゆるセレブたちが集まっている。そこに貨幣の価値やしくみさえ良く理解していないムーミン谷の住民を放り込むとどうなるか、というのがストーリィ。ただ純真無垢が素晴らしい、というふうな単純な構成にはなっていないにせよ、基本的にはスノッブどもを嘲笑いお金や権力といった世俗の価値観をひっくり返し、「やっぱり我が家が一番」というところに落とし込むのはまあ予想通りといっていい。ただそのおちょくり方はいかにもヨーロッパ風。特にラスト、虫のせいでみんな口が悪くなるところなどかなり愉快だったんだけど、日本ではこういう脚本はまず書かれないだろうなあとも思った。なにしろ西欧風のセレブとかスノッブとか、日本国内では日常的には観測できない階層だから、それをこんな風に諷刺するという発想にはなかなかなりにくいのかもしれない。見ようによってはかなり過激だし、イマ風に「ヤバイ」テイストでもあるんだけれども、原作者トーベ・ヤンソンその人の気風というか彼女が生きていた時代の精神がかなり反映されている作品であるようにも感じた。ちなみに原作コミック《南の島へくりだそう》が作られたのは1955年。<リゾート地のスノッブども>を描いた漫画としては、わたしなんかはサンペの《サン=トロペ》を思い浮かべるが、あちらは1968年。サンペ作品との大きな違いは性的モラルの差と言っていいかもしれないが、子ども向けと大人向けの違いってことは確かにあるのだろうけど、それ以上に「時代の違い」という方が大きいように思う。
 
 
 この映画、冒頭にも書いたように音楽がかなり印象に残った。サントラCDが欲しいなあ。アマゾンを見ている限り商品としてはまだ出てないみたいだけど、期待したい。